和歌山毒物カレー事件

1998年07月25日土曜日

和歌山毒物カレー事件(わかやまどくぶつカレーじけん)とは、1998年(平成10年)7月25日夕方に和歌山県和歌山市園部で発生した毒物混入・大量殺傷事件である。
地区で行われた夏祭りにおいて提供されたカレーに毒物が混入され、カレーを食べた67人が中毒症状を起こしうち4人が死亡した。
和歌山カレー事件とも呼ばれる。
被疑者として逮捕・被告人として起訴され、殺人・殺人未遂・詐欺の罪に問われた主婦の林眞須美(はやし ますみ)は無罪を訴えるが2009年には最高裁判所にて死刑が確定した。


事件発生
1998年7月25日、和歌山市園部地区で行われた夏祭りで、カレーを食べた未成年者30人を含む67人が腹痛や吐き気などを訴えて病院に搬送され、小学4年の男子児童(当時10歳)と高校1年の女子生徒(当時16歳)、園部第十四自治会の自治会長(当時64歳)と副会長(当時53歳)の4人が死亡した。
被害者は会場で食べた者や自宅に持ち帰って食べた者などで、嘔吐した場所も様々だったという。
異変に気付いた参加者が「カレー、ストップ!」と叫び、一連の嘔吐がカレーによるものと発覚した。
当初保健所は食中毒によるものと判断したが、和歌山県警は吐瀉物を検査し、青酸の反応が出たことから青酸中毒によるものと当初は判断された。
しかし、症状が青酸中毒と合致しないという指摘を受け、警察庁の科学警察研究所が改めて調査して亜ヒ酸の混入が判明した。
この際、使用された毒物の組成を調べるために、SPring-8が使用された。
亜ヒ酸に含まれる特定の不純物元素の量を比較して、異同識別が行われた。この為の重元素不純物の検出には『SPring-8の性能が必要』とされたためである。
これを受け地元自治会や学校では臨時の会議が行われ今後の対応について話し合われた。
逮捕・起訴
1998年10月4日、知人男性に対する殺人未遂と保険金詐欺の容疑で、元保険外交員で主婦の林 眞須美(はやし ますみ、1961年7月22日 – 、事件当時37歳)が、別の詐欺及び同未遂容疑をかけられた元シロアリ駆除業者の夫とともに和歌山県警捜査一課・和歌山東警察署による捜査本部に逮捕された。
さらに12月9日には、カレーへの亜ヒ酸の混入による殺人と殺人未遂の容疑で再逮捕された。
同年末の12月29日に林は和歌山地方検察庁により、殺人と殺人未遂の罪で和歌山地方裁判所に起訴された。
刑事裁判
林は容疑を全面否認したまま裁判へと臨み、1999年5月13日に和歌山地裁(小川育央裁判長)で開かれた第一審・初公判では5220人の傍聴希望者が傍聴券抽選会場の和歌山城砂の丸広場に集まった。
これはオウム真理教事件の麻原彰晃・覚醒剤取締法違反の酒井法子に次ぐ記録であり、事件発覚前に無名人だった人物としては最高記録である。
裁判で検察側が提出した証拠は約1700点。
1審の開廷数は95回、約3年7か月に及んだ。
2審は結審まで12回を要した。
直接証拠もなく、動機の解明もできていない状況の中、上告審では弁護側が「地域住民に対して無差別殺人を行う動機は全くない」と主張したのに対し、最高裁は判決で「動機が解明されていないことは、被告人が犯人であるとの認定を左右するものではない」と述べ、動機を解明することにこだわる必要がないという姿勢を示した。
2002年12月11日に開かれた第一審判決公判で和歌山地裁(小川育央裁判長)は被告人・林の殺意とヒ素混入を認めた上で「4人もの命が奪われた結果はあまりにも重大で、遺族の悲痛なまでの叫びを胸に刻むべきだ」と断罪し検察側の求刑通り被告人・林に死刑判決を言い渡した。
被告人・林は判決を不服として大阪高等裁判所に即日控訴した。
大阪高裁(白井万久裁判長)での控訴審初公判は2004年4月20日に開かれ、2005年6月28日の控訴審判決で大阪高裁は「カレー事件の犯人であることに疑いの余地はない」として第一審・死刑判決を支持して被告人・林側の控訴を棄却する判決を言い渡しした。
被告人・林は判決を不服として同日付で最高裁判所へ上告した。
2009年4月21日に最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は「鑑定結果や状況証拠から、被告が犯人であることは証明された」と述べ、林側の上告を棄却する判決を言い渡した。
林被告人は2009年4月30日付で死刑判決の破棄を求めて最高裁第三小法廷に判決の訂正を申し立てたが、申し立ては同小法廷の2009年5月18日付決定で棄却されたため、同日付で林の死刑が確定した。
これにより林は戦後日本では11人目の女性死刑囚となった。
死刑囚・林眞須美の現在
2020年3月29日時点で 死刑囚・林眞須美は大阪拘置所に収監されている。
死刑囚・林は2009年7月22日付で和歌山地裁に再審請求を提起した。
林及び弁護団は「無罪を言い渡すべき新たな証拠」として「祭り会場に残された紙コップのヒ素が自宅から発見されたものとは異なる。京都大学の研究者の鑑定からも『事件当時のヒ素の鑑定方法は問題がある』ことは明らかだ」と主張した。
2014年3月、林は支援者の釜ヶ崎地域合同労働組合委員長・北大阪合同労働組合執行委員長・稲垣浩と養子縁組している。
第一次再審請求は和歌山地裁(浅見健次郎裁判長)の2017年3月29日付決定により棄却され、これを不服とした林は2017年4月3日までに大阪高裁に即時抗告した。
しかし大阪高裁(樋口裕晃裁判長)は2020年(令和2年)3月24日付で死刑囚・林の即時抗告を棄却する決定を出したため、林はこれを不服として同年4月8日付で最高裁に特別抗告を行った。
また林は獄中で長男と手紙のやり取りをしており、長男が2019年5月3日にTwitterで公開した林からの3枚の手紙には、最も重要視されている近隣住民の目撃証言で「白いTシャツ」を着ていたとされる点に触れ、他の主婦らは黒っぽい服装をしていたと証言し、当の眞須美被告も黒いTシャツを着ていたと述べていたが、この手紙の中でも再三「黒色のTシャツ」を着ていたことを強調して述べている。
裁判の反響
1審において被告人が完全黙秘を行ったことに対して、メディアが批判的な報道を行ったため、1審の判決文において黙秘権の意義に関し、専らメディア向けとみられる一般的な判示がなされるなど、刑事裁判の在り方の点から見ても特異な事件となった。
最高裁では、犯行に使われたものと同一の特徴を持つヒ素が被告の自宅等から発見されたこと、被告人の頭髪から高濃度ヒ素が検出されたことなどから「被告が犯人であることは合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に証明されている」とし、弁護側が主張した「被告人には動機がない」との主張に対しては、「動機が解明されていないことは、被告が犯人であるという認定を左右しない」と退けた。
ビデオ映像の証拠採用
裁判では、被告人が事件について語りテレビで放送された「ビデオ映像の証拠採用」についても争点となった。
これは事案の重大性の中で黙秘を続ける被告人の事件に関する言葉が得られない中で、テレビ局の取材に対して被告人が事件に関するインタビューに応じているという事情があったため、真実解明という点で検察がテレビ局の被告に対するインタビュー映像の証拠申請をしていた。
それに対し、報道機関からはビデオ映像を証拠採用されることは取材方法に対する権力の介入として反発し、弁護側も誘導による不正確な発言及び意図的な編集の可能性から証拠採用に反対した。
裁判所は数少ない被告人の事件に関する証言として、民放4社6番組から収録されたインタビュー映像計約13分間分を「言動が趣旨を異にすることなく再現されている」として供述録取書として採用した。
また裁判所は「報道機関が報道し、国民の多くが知っている情報を、なぜ真実の追求を目的とする刑事裁判で証拠としてはならないのか、理解に苦しむ」と判決文で述べ、ビデオ映像採用に反発する報道機関に苦言を呈した。
被害者の症状
本事件で生存した63名について、和歌山県立医科大学皮膚科が行った調査がある。
たとえば、事件後2週間に被害者の多くに共通して見られた兆候は、次のとおりであった。
吐気 92%
嘔吐 94%
下痢 54%
低カリウム血症 60%
白血球増加 60%
QT延長症候群 51%
冤罪疑惑
本事件の象徴として、「直接的な証拠が一切存在しない」という点が挙げられる。
事件当時から目撃証言などの状況証拠の積み重ねてきたが、その中には不自然で辻褄の合わない証言も多く、関係者から疑問視されるケースもある。
「批判を承知であえて言えば、本人が容疑を否認し、確たる証拠はない。
そして動機もない。
このような状況で死刑判決が確定してよいのだろうか」(田原総一朗)。
「私のわだかまりも、この「状況証拠のみ」と「動機未解明」の2点にある。
事件に、林被告宅にあったヒ素が使われたことは間違いない。
ただし、そのヒ素に足があったわけではあるまいし、勝手にカレー鍋に飛び込むわけがない。
だれかが林被告宅のヒ素をカレー鍋まで持って行ったことは確かなのだ。
だが、果たしてそれは本当に林被告なのか、どうしたって、わだかまりが残るのだ」(大谷昭宏)。
「2審判決は「誠実に事実を語ったことなど1度もなかったはずの被告人が、突然真相を吐露し始めたなどとは到底考えられない」と言ったが、これは実質的に黙秘権侵害です」(小田幸児 – 林の1審、2審、上告審弁護人)
裁判で林の犯行と断定される上での唯一の物証で決定的な証拠となっていた亜ヒ酸の鑑定において、犯行に使われたとみられる現場付近で見つかった紙コップに付着していたヒ素(亜ヒ酸)と、林邸の台所のプラスチック容器についていたヒ素、カレーに混入されたヒ素が東京理科大学教授の中井泉による鑑定の結果、組成が同一とされたが、のちに中井は依頼された鑑定の内容は、林宅のヒ素と紙コップのヒ素とカレーのヒ素の3つにどれだけの差違があるかを証明することではなく、3つの試料を含む林宅周辺にあったヒ素のすべてが同じ輸入業者経由で入ってきたものだったかどうかを調べることだと理解し、それを鑑定で確認したに過ぎなかった。
このため有罪の決め手となった3つの試料の差違を詳細に分析はせず、3つの試料を含む10の資料のヒ素がすべて同じ起源であることを確認するための鑑定を行っていたにすぎなかった。
当然ながら、林が自宅にあったヒ素を紙コップでカレーに入れたことを裏付けるためには、3つのヒ素の起源が同じであることを証明しただけでは不充分であり、その3つがまったく同一でなければならない。
弁護側の依頼で鑑定結果の再評価を行った京都大学大学院教授の河合潤により3つは同一ではないと評価された。
被告の次女は林死刑囚がカレー鍋の見張りを離れた時間が20分以上あり、他の人物が毒物を入れる機会はあったと主張している。
なお、和歌山地裁はこの証言を証拠に採用しないことを決定した。
本事件の影響
カレーライスのイメージ悪化
和歌山毒物カレー事件では報道で「毒入りカレー」の文字が前面に出ていたためにカレーライスのイメージが悪くなり、食品会社はカレーのCMを自粛し、料理番組でもメニューをカレーにすることを自粛した。
また、テレビアニメ『たこやきマントマン』と『浦安鉄筋家族』では、ストーリーにカレーが出る回が放送されなかった(これらの回は、前者は再放送時に初放送され、後者はVHSビデオ化の際に収録された)。
そして、日本ではちょうど夏祭りが各地で開催される時期だったことから、犯人逮捕前は、各地の夏祭りなどで食事の提供が自粛されるなどの騒動に発展した。
この他、前述の犠牲者である小学4年生の男子児童は当時和歌山市立有功小学校に通っていたが、同小学校では事件発生から2017年時点でも一切給食でカレーが出されていない。
模倣犯の出現
和歌山毒物カレー事件の後、飲食物に毒物を混入させるといった模倣犯が日本では多数現れた。
中でもアジ化ナトリウムは混入が相次ぎ、1999年にはアジ化ナトリウムの管理を徹底させるべく、日本においてアジ化ナトリウムは毒物に指定され、規制が行われるに至った。
林真須美が起こした訴訟
林真須美は、本事件後に多数の訴訟を起こしたことで知られる。
その中で「カレー毒物混入事件法廷写真・イラスト訴訟」では、取材対象に無断で撮影した写真や、無断で描画したイラストを報道した時に、肖像権侵害となるのはどういった場合なのかについて、日本の最高裁判所として初めて基準を示すに至った。
この中で最高裁は、撮影や描画された人物の社会的地位、活動内容を鑑みて、撮影や描画を行った場所、目的、さらに、撮影や描画をどのように行ったか、そもそも撮影や描画の必要性があったかを総合し、撮影や描画された側の人物が社会生活上の我慢の限度を超えるかどうかで判断すべきとし、林真須美の写真や一部のイラストについて違法と判断した。
なお、この訴訟以外にも、例えば2012年に再審請求中の林は事件の裁判において虚偽の証言をしたとして、100万円の損害賠償を求めて夫を提訴した。
その他、週刊朝日の調べにより、マスメディア関係者や事件の発生地の地元住民、生命保険会社に勤務していたときの同僚など、計50人ほどを相手に訴訟を起こしていることが判明。
しかし、弁護士も立てていないため訴訟の遂行は難しいという。
かつてメディアを相手に500件以上の訴訟を起こしたロス疑惑の三浦和義は生前、林を支援しており、林に対しマスメディアを訴えることを勧め、手紙や面会で方法を伝授していた。
これに対し林も「三浦の兄やん、民事で訴えちゃるって、ええこと教えてくれた」と答えた。
その他
障害者郵便制度悪用事件で村木厚子を取調べ中に、担当検察官である國井弘樹は、村木に向かい「あの事件だって、本当に彼女がやったのか、実際のところは分からないですよね」といい、否認を続けることで冤罪で罪が重くなることを暗示し自白をせまった。
逮捕前、自宅を取り囲む報道関係者たちに笑いながらホースで放水している姿を撮った映像が繰り返し使用され、ふてぶてしい印象付けがメディアによりなされたが、これについて後に夫は、報道が過熱し夜中中取り囲まれたが、彼らが蚊に刺されないよう殺虫剤を持って行ったりしたにもかかわらず、郵便受けから郵便を抜き取ったり、塀にはしごをかけ2階の子供部屋を盗撮したりされたため、真須美に「あいつらのぼせ上ってるから、記者会見する言うて集めて、上からいっぺん頭冷やしたれ」と命令したとした上で、「いかにもカレーに毒入れそうなおばはんの「絵」」にされたと語っている。
フジテレビ『ニュースJAPAN』で、キャスターの安藤優子が事件の注目人物であった逮捕前の林に電話インタビューを試みている。
逮捕前だったこともあり、注目人物であった林の名前を自主規制音を被せて名前を匿名化していたが、編集ミスで1か所だけ自主規制音が入っていなかったためその部分だけ「林さんは…」という言葉がのって放送されてしまった。
そのため、林から「おかげで外に買い物にも行けない。どうしてくれるのか?」と、猛抗議を受けた。
事件後、無人となった林の自宅の塀や壁に「人殺し」などの大量の落書きがされるようになった。
林宅はその後2000年2月に放火により全焼。
そのニュースを聞かされた獄中の林は「ああ、そう」と答えた。
解体され、跡地は自治会が買い取り、近隣住民により草花が植えられている。
なお、放火犯は逮捕され実刑判決を受けている。
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和歌山カレー事件 長男 (@wakayamacurry) – Twitter – 林の長男のTwitter

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